2025年3月12日(木)のお稽古は、各々が各種行事・華道展への出瓶を念頭に置いた花材や花型での稽古を行いました。
華道相阿彌流の本部神楽坂教室(家元教室)での稽古模様と生徒作品をお届けします。


生徒作品:小手毬(コデマリ)

花材 | 小手鞠(コデマリ;Reeves spirea / Spiraea cantoniensis) |
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作者 | 徳樹庵 野田 俊慧(”Tokuju-an” Shunkei NODA) |
夜の部では、野田俊慧が小手鞠(コデマリ)で花材の特徴をいかした風情ある作品を披露。
小手鞠のように枝の先端部分がしなやかに垂れ下がるものを、華道の世界では「なびきもの」と呼ぶことがあります。
こうした現象を一般には「枝垂れる(しだれる)」と言うことがあり、枝垂桜(シダレザクラ)や枝垂柳(シダレヤナギ/糸柳)などが有名どころだと言えるでしょう。
特に枝垂柳にいたっては、柳(ヤナギ)と言うと枝垂れている様子を思い浮かべる人が多いほどに、枝垂柳という植物が広く普及しています。
ところで、なびきものになるような植物は、なぜ枝垂れるのでしょうか?
花や植物にご関心のある方は、植物といえば基本的にはまっすぐ育ち、樹木の枝も地面に対してなるべく水平に育つというイメージをお持ちでしょう。
実際に、多くの植物は原則として光源(つまり太陽)の方向へとまっすぐに茎・枝を伸ばしていきます。
そして、それが樹木であれば、固い樹皮のおかげで草本(木にならない植物のこと)よりももっと上部にまっすぐと、垂れることなく伸長していくものです。
しかしながら樹木のなかには、成長点(枝の先端部分)が樹皮として固くなる速度や枝が太って独り立ちできる幅になる速度よりも、枝の伸びるスピードが勝るものが存在します。
この場合、やわらかいままの細い枝先が伸びることでどんどん重くなって自重を支えきれず、重力に誘われて地面のほうへ垂れ下がるのです。
ただ、枝垂れの理由には成長速度以外の要因も考えられるという説があります。
たとえば冒頭で取り上げた枝垂柳の場合には、成長速度の問題ではなく、湿地帯に原生するこの植物は池や沼からの反射光に呼応して下へ成長するからだとも考えられているのです。
このように、枝垂れる理由には成長速度や原生環境の都合などが考えられています。
ただし今日一般に見られる樹木に限って言えば、枝垂れる様に風情や観賞価値を見出した人間が好んで品種改良や挿し木を行った結果、枝垂れやすい遺伝を持ったものが残りそれが普及していると考えるのがよいでしょう。
さて、話を小手鞠に戻すと、小手鞠というものは非常に成長旺盛な植物です。
園芸では枝の剪定がキーポイントと言われるほど成長スピードが速いのです。
ですから、恐らく小手鞠の場合は、成長速度が枝の肥大や硬化よりも速いがために枝垂れやすいのだと考えられます。
少なくとも江戸時代初期には中国より渡来していたとされ、たとえば重要文化財《小袖染分綸子地小手毬松楓模様》(江戸時代・17世紀、東京国立博物館所蔵)に刺繍として取り入れられています(安土桃山時代から江戸時代初期にかけて人気の柄だったともいわれています)。
また、その江戸時代のはじめごろに著されたとされる花伝書にも花材としての用例が見られることから、日本人はかなり早い段階で小手鞠の持つ美しさや趣に着目して魅せられていたとも考えられるでしょう。
生育旺盛で枝の分岐も多い小手鞠を、その勢いを残しつつ、弓なりに枝垂れてたなびくはかなさも表現する。
花材としてポピュラーな小手鞠ですが、なびきものとしての表現には工夫を要する植物です。
日本に輸入されて間もなく花材に取り入れられ、約400年。
今日も晩春~初夏の花材の第1線を張る小手鞠の作品を通して、これまでの華道家や栽培家たちの創意工夫に想いを馳せてみるのも面白いでしょう。